言葉のリハビリ場

特にテーマはなく、ざっくばらんに書いています

廃墟の話


廃墟というやつは、いろいろな意味で怖い場所である。心霊的な意味はもちろんだが、人間含め何かの動物が勝手に住み着いていることもあるし、それから誰も管理していないということは倒壊などの危険もある。そういう場所である。

子供の頃、家の近くにあった工場の廃墟はそれらの怖さに加えて、あまりにだだっ広い空き地にあって余計に不気味だった。夏でなくても草だらけなのでかき分けて入ってくのは困難なくせに、周囲は完全に住宅街だからどの角度からでも見通しが良かったということもあって、侵入したらすぐにバレそうな立地だった。
そういうこともあって、気にはなっていたもののその廃工場にはついぞ足を踏み入れずに終わった。10年以上ずっとぽつねんと放棄されていた土地だったが、いつの頃か急に開発が始まり、今ではもうその面影はない。小学校の校庭よりも二回りくらい広かった土地だったので、住宅街で遊ばせておくのにはあまりにもったいなかったのだろう。それにしては放置され過ぎていた気もするけれど、まあおおかた地権者がたくさんいたとか相続の過程でややこしくなったとかそういう事情が絡んでいるのだろう。
そうでないとそもそも、いくら工場がつぶれたからと言って廃墟のようになるまで放置しておくなんてことはまあなかったはずだ。
ぼくらの七日間戦争』という廃工場に立てこもる中学生の様子を描いた小説があったけれど、雰囲気としてはあんな感じだっただろう。ただまあ知っている限りでは、廃工場に立てこもるどころか、足を踏み入れたことのある人間はいなかった。中がどうなっているのかなど気になってはいたのだろうけれど、もうなんというかずっと存在がタブーというか、悪ふざけでも話題に上がってこないような、そんな場所だった。誰のたまり場にもなっていなかったからこそ、案外ずっと放置されていたということなのかもしれない。

私がそんな昔のことを思いだしたのは、今住んでいる家の近くにも明らかに廃墟のような場所があるからだ。
工場ではなく、アパートのような建物なのだけれど、明らかに誰も住んでいる様子がないのにそのままの形を保って放置されている。1階のベランダと道路の間に貼ってあっただろう目隠し用のプラスチックの板がもうほとんど壊れているせいで、建物の中の様子が丸見えになっているので普通に様子を確認できる状態だ。
窓やベランダに通じているガラス戸こそ閉じられているものの、そこから見える室内の様子はなかなかに荒廃している。フローリングの床はところどころ穴が開いていて抜けているし、和室のような部屋にはボロボロで引き取り手もいなかったのであろうふすまが傾いて置かれていたりしていて生活感のようなものはまるでない。エアコンの室外機が置いてあったであろう場所はぽっかりと空いた状態になっていて、配線を無理やり引き抜いたのか、中途半端にちぎれたような状態でぶら下がっているところもあった。
そんな状態にもかかわらず、誰かが住んでいた時のものであろうバケツや洗濯ばさみなんかもところどころで放置されていたりして、荒廃している様子とちょっとした生活の痕跡が入り混じったカオスな状態になっている。
見た目的にきっと企業の独身寮とかだったんだろうな、思いながら調べてみたらたぶんそんな感じの情報が出てきた。寮かどうかまでは定かではないが、建設会社っぽい名前の本社所在地にもなっており、事業所兼住宅、みたいな感じにして使っていたのだろうか。ただ、住所で調べたらHomesの過去掲載情報が出てきたので、普通に一般にも化したりしていたのかもしれない。間取りやない軒の時か何かの写真も出てきたので、荒廃する前、人が普通に住んでいた頃の様子を写真で見ることができてちょっとおもしろい。今どき調べるとなんでも出てくるものである。

しかしまあ鉄筋造りで頑丈そうな見た目であるので壊れてきそうな感じはないが、部屋の中の様子から言ってもだいぶ劣化している可能性はある。隣とか向かいに住んでいる人はちょっと怖かったりしないんだろうか、いろいろな意味で。入り口に植えられている草木も手入れされていないせいでだいぶ乱れているし、虫や動物なんかが住み着いていたりしないだろうか、などと思ってしまう。この辺ではあまり見ないけれど、蝙蝠とかが住み着いていてもそんなにおかしくないと思う。

まあ私は基本的に虫の類は嫌いだし肝試し的なことも好きじゃないので中に侵入してみようなんて気はさらさらないけれど、昔の例の子供の頃にあった廃工場のそれと違ってアパートは基本的に道からも近くてオープンな状態(当然オートロック的なものはない、団地の小さい版みたいな作り)だから、侵入しようという輩が湧いたりしないのかちょっと心配である。
でもまあそれ以上に、最近この建物の向かいに新築の家が数件建ったりしているのだが、毎日この廃墟マンションを目の前にしてどんな気持ちで生活しているんだろう。

案外気にならなかったり、慣れたりするのかな。