言葉のリハビリ場

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豆苗再生産

 

豆苗という食べ物がある。分類としてはたぶん、野菜……でいいはずだ。それも緑黄色野菜の類である。
見た目はカイワレ大根のそれに近いけれど正体はえんどう豆の若い芽ということで、癖がなくて食べやすい。ほんのり豆のような香りはあるけれど、アクがなく特に何か邪魔をするようなこともないので、そのまま気にせず食べられる。
10年くらい前までは全然見たことのない食材だったように思えるのだけれど、このところ急速に普及して普通にスーパーなんかでも見られるようになった。もともとは中華料理の「豆苗炒め」みたいな形でお目にかかるようなことが多かった。私にとっては、なんだかよくわからないけれど美味しい青菜の炒め物の仲間、くらいのイメージだった。要するに空心菜とかと同じカテゴリである。それくらいの雑な認識だったけれど、近頃は結構身近な存在になってきて、改めて食べる機会が増えてきた食材となっている。

そんな豆苗だけれど、基本的には根っこが付いたままの状態で販売されている。上の方の可食部を包丁でバッサリ切った後には、ぎっちりと四角く詰まった根とその元になったであろう豆が残される。

これを水耕栽培の要領で放っておくと、自然とまた芽が伸びてきて収穫できるようになるという。2、3回くらいはまた食べられるようだ。事前にその話を聞いていたので、面白そうだしせっかくなので私もやってみることにした。いつぞやのシイタケ栽培以来の食べ物の栽培である。
一緒に買ってきたものに入っていたプラスチックのトレーに水を張って、放置をしておいた。

ところがこの豆苗、なかなか育ってくれない。7日から10日で収穫できるくらいにまで伸びていくと聞いていたのでさっさと伸びるものだと思ったけれど、思いのほか育ちが悪いのだ。というか、最初の2,3日くらいは全然音沙汰がなかったほどだ。ただ表面上は何もなかったが、気が付かないところではちゃんと成長していたようで、初日水替えをした時に「豆」の部分が転がり落ちてしまいそれを適当に戻しておいたものがちゃんと落ちてこなくなっていた。
そう起こしているうちにいくつか新しい芽のようなものが育ち始めてきて、今では2,3cmくらいの長さの芽があちこちから出てきたような状態にまではなってきた。ようやくそれっぽくなりつつある。このまま10cmくらいの長さまで伸びてくれるだろうか。ようやくちょっと楽しくなってきた。


後から調べて知ったのだけれど、どうも私が豆苗を調理するときに根の近くの部分を切りすぎていたことが原因で芽の生育が遅くなっていた様子であった。脇芽を残して切っておけばすぐにまた生えてくるのだけれど、特に気にせず切ってしまっていたので、芽の生育に時間がかかっているらしい。ちゃんと切りすぎずに残しておいたつもりだったけれど、ポイントを抑えていなければ意味のないことであったようだ。豆苗は脇芽の位置を見てから収穫する、次からはそうしようと思う。
後はもしかしたら、買ってからいろいろあって4日くらい冷蔵庫に放置していた(それも野菜室ではない普通のところに)のも良くなかったかもしれない。

まあ今更そんなことはどうしようもないし、別に生育具合が悪くても困ることはないので気長に今も育てている。次やる時にいろいろ試してみればいいし、別に失敗したってどうということのないものだ。観葉植物……とまではいわないけれど、ちょっとずつ育っていくさまを見るのは面白いものだ。
同時に、「このままかじり付いたら馬や羊とかの草食動物の気持ちがわかるかもしれない」という変な欲も生まれてきている。包丁でも手でもいいから収穫して食べるのが普通だと思うけれど、「これが最も自然な形のサラダなのです」みたいな美味しんぼみたいなセリフと共に食べてみたいという気持ちもある。
せっかく育てているのだから普通に扱いたい気持ちと、せっかく育てているのだから普通はしないふざけ方をしたい気持ちがあって、どうしようか思案中だ。
店で買ってきた状態の豆苗にかじり付きたいとは別に思わないけれど、育てているとなんでかそういった変な衝動みたいなものが芽生えてくる……これは何なんだろうね。不思議。