言葉のリハビリ場

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桜を食べる

この季節になると一斉に発売されるのが「桜味」のお菓子や飲み物である。桜味。一体どんな味だろう?
似たような花の名前を挙げてみる。桃味。うん、それはわかる。あの果実の味は誰もが知っているし、桃味といってだいたいわかるだろう。梅も同じようなものだろう。若干果実の梅そのものと梅干しとで想像する味がぶれるけれども、まあ酸っぱい味なんだろうなと想像がつく。

では桜味は何だろう。桜の味というのは間違いなく桜の果実つまりさくらんぼのことではない。さくらんぼ味やチェリー味というものは別のジャンルとして存在するので、桜味はさくらんぼを指していないのは明白である。


桜の葉の塩漬け、つまり桜葉漬けを知っているだろうか。一番有名な使われ方はおそらく桜餅に巻いてあるものだろう。私はほとんどそれしか見たことはないし、ほかには「桜餡」とか「桜ペースト」といったものに混ぜ込まれているイメージのものだ。好きとか嫌いとかは特に感じたことがないけれど、桜餅に巻かれていたら一緒に食べはする。私にとってはそんな存在である。

桜葉漬け、これは「桜味」の正体の一つと言っていいのではないだろうか。

桜葉の良いところは何といってもその香りである。塩味ではない。塩は副産物というかおまけのようなものだ。確かにあの塩気は甘い桜餅の餡を引き立てる役割を担っているけれども、そういうことではない。「桜味ってなんだよ」とはよく耳にする疑問であるけれど、その答えの一つはあの桜葉の独特の良い香りこそが答えだろう。
あの香りをかぐと、なんとなく桜の季節がやってきたことを感じるものだ。桜味とか桜風味と呼ばれているものは味というよりも香りなのだろうと私は思うわけである。

香りの正体は「クマリン」という芳香成分である。なんとも可愛らしい名前だ。普通に生えているそのままの状態では香りはしないが、塩蔵したり砕いたりすると酵素と反応して香りがするようになるらしい。
芳香成分でありながらもこのクマリンそのものも苦みを感じる成分らしいが、基本的に塩蔵されたものを口にしているので正直そこまで苦みを感じたことはない。だからやっぱり桜は味ではなく香りなのである。


桜は葉だけでなく、ほかには桜の花もよく食用に用いられる。葉っぱよりも見る機会自体は多いかもしれない。何に使われているかで分かりやすいのは、アンパンの上に乗せてあるところだろうか。花は香りや味以上に見た目の華やかさが重視される。だから花びらの多い八重桜が基本的に桜花漬けとして使われるわけである。桜花漬けこそ葉に比べても香りは薄いような気がするけれど、どういうわけか小さな頃はあのアンパンの上の花びらをいつも食べたがってせがんでいた記憶がある。美味しいものかと言われると正直どうなのかわからないのはそうだけど、幼いころというのはなんだかそういう「ちょっと特別なもの」みたいなものが欲しくなるものなんだろう。この場合は味でも香りでもなく、見た目や特別感だろう。

面白いものである。桜味が良い桜が食べたいと言っておきながらも、本当は味よりも香りを、ある時にはさらに見た目や特別感を食べているのかもしれない。