言葉のリハビリ場

特にテーマはなく、ざっくばらんに書いています

台風の翌日に出かけた話


もともと、3連休には2つの用事があった。土曜日つまり台風来襲の日には関西方面へ行く用事があった。しかしながら台風も西側つまり東海地方経由でやって来るとのことで、前日の時点で新幹線の全面運休が決まっていた。そういうわけで関西行きは事実上不可能となった。どうしても行きたい集まりではあったが移動手段がなくては仕方がない。金曜日に情報が出た時点で集まり自体が早々に中止となった。
もう一つは、月曜日に東北方面に行く用事である。元から予定としては土曜関西月曜東北、間の日曜日は新幹線で大移動、というまあまあ無茶な行程であった。どちらの用事も外したくなかったのと、ちょうど用事そのものは土曜と月曜であったことから無理やり実現しようと計画を練った結果が日曜の大移動である。ただまあ関西から東北と言っても、全部新幹線で移動すれば5時間くらいのものである。昼前に出て夕方に到着するくらいのものなので、距離がものすごく長いことを除けばかなり余裕のある行程のはずだった。
本当は新幹線ではなく飛行機の方が圧倒的に早いのだが、値段を見てあきらめた。台風が来るとは知らなかった頃の話である。5時間新幹線に乗るのはそんなに苦痛ではないとの判断と、あとはもう本当に気まぐれで決めただけなのであるが、結果的には新幹線ルートで大正解であった。
そういうわけで土曜日はおとなしく自宅で過ごしたわけだが、翌日日曜日は東北方面に出かけることにした。情報によると、昼頃には東北新幹線も動く予定だという発表があった。昼頃という表現であるので具体的な時刻はわからなかったが、多少遅くなることはあっても普通に出かけられそうだと判断して、駅で放送を聞きつつ待つことにしたのであった。

再開したらさっさと新幹線に乗り込むべく、改札の近くで待機する。
駅の電光掲示板は真っ黒だ。運転再開時刻ははっきりと決まっておらず、なにも表示できないのであろう。土砂流出のため線路に岩が落ちてきているらしく、どうもその処理に難航しているらしかったために、駅の放送では繰り返し運転再開時間の見込みが立っていない旨をアナウンスしていた。
既に山形新幹線北陸新幹線は終日運休が決まっていた。上越新幹線だけが運行している。東北新幹線は運転再開時刻の見込みこそ立ってはいないが、どうにかして当日中に動かそうとしているようだった。


こういったダイヤが大幅に乱れている時の動きというのは非常に難しい。基本的に情報源となるのは、公式HPと駅でのアナウンスである。多くの場合駅のアナウンスが一番早い情報で、正式にHPなどに掲示される。SNSでの情報も玉石混交ではあるが、アナウンスなどを聞いた後即反映される(場合がある)点において緊急時はかなり重宝する。

駅のアナウンスというのは案外聞こえにくいものだ。改札外にいればなおのことである。

この日ずっと私は改札外にいた。当日中に動かないとなれば、乗車券を買っていた場合は払い戻し等の手間が発生する。窓口はものすごい行列であったが、それに比べて指定席券売機前には全く人がいない。ならば運行が決まった瞬間に券売機で買い求めても全く問題ないと判断したのだ。それに、東北新幹線の最速達列車は全席指定であるため、どうせ指定席券売機には寄らなくてはならないのだ。


15時半。
運転再開時刻が16時であることが告知された。那須塩原行きの「なすの」が12時前に1本(なぜか)動いたきりだったのが、やっと光明が見えた。
電光掲示板には列車案内が出ている。多くの列車は運休扱いになっていたのだが、その時点で9時半初予定だったの「やまびこ」仙台行きと14時20分発の「はやぶさ」2本が電光掲示板に残っており、これら2本がそれぞれ16時と16時20分に発車するようだった。
私は「はやぶさ」に乗ろうと思った。これが例の最速達の列車である。つまりは全席指定の列車でもあるので、それならばと急いで指定席券売機に向かったのだ。

ところが、指定席券売機というのは現在時刻よりも前の列車の指定席は取り扱いがない。16時20分に発車する列車は、もともと14時20分発であったものが2時間遅れで出発する、との扱いである。この指定席を買う術がない。では窓口に並ぶのか、と見るとそこには長蛇の列。並ぶだけで数時間を要するし、それではいつになったら乗車できるのかわからない。
えきねっと」というweb上で指定席を購入できるサービスがあるのでそれも試してみたが、どうも「何時になったら何時発の列車が動くか」が決まっていないため、全ての列車が発売中止になっており、指定席が購入できない状態になっていた。
発車時間の16時20分は刻一刻と迫ってくる。切符をどこで手に入れればよいのかすらままならない状況で、とりあえず改札内に入ることにした。新幹線用の改札はさらにその中にある。その手前で、案内をしている駅係員に声をかけた。

「16時20分発の指定席券はどこで買えますか」
聞くや否や、係員はこう返してくれた。
乗車駅証明書を発行するのでとりあえず列車に飛び乗ってください!」
「え、清算とかは……」
「降車駅で可能です!」

なんということだろう。
瞬く間に私の手には「乗車駅証明書」なるものが渡された。日付印と乗車駅が書かれている、一枚の小さな紙である。

言われたとおりに列車に飛び乗る。1車両に10人も乗っていなかったと思う。あとからわかったことであるが、乗っている人は事前に14時20分発の列車の指定席を予約していた強運の持ち主(事前にどの列車が運休でどの列車を遅延としてそのまま運行するかなど皆目見当もつかなかった)を除いて、ほとんどが私と同じように「とりあえず乗り込んで目的地で清算する」ように言われた人だった。
大宮を発車したあたりから車掌が切符を見に来ると思うのだけれど、母数はかなり少ないながらほとんどの乗客が切符を持っていなかったがために、私の所に車掌がやってきたのはもう福島あたりに差し掛かるころだった。
乗車駅証明書を見せると、目的地を聞かれる。答えると、それでは駅で精算してくださいね、とだけ言われる。駅で言われたのと同じだ。そういう意味では臨時対応で素早く発券してくれたあの時の駅係員の方にはお礼の言葉しかない。本当に。

多少遅延もありつつ、途中駅でほとんど人が乗ってこないまま目的地(盛岡)に到着した。19時手前のことである。
途中から全席自由席扱いにして運転したりするのかと思いきや、結局最後まで解放されなかった。仙台で数人、指定席券を持っている人が乗ってきたけれど、それでも座席の9割は空席だった。

駅で精算を待つ列に並んだのも10人くらい。そんなに待たずに清算が終わる。ついでに2時間以上の遅延という扱いだったので、特急料金がかからなかった。


今回は、たまたまうまく事が運んだだけである。たまたま話しかけたタイミングと場所がよかっただけだ。混乱の中、本当に情報が錯綜しているときはアナウンスのようなものも入らないものである。
正しい情報を捕まえに行くことと、判断と。実に難しいものだ。勉強になった。