言葉のリハビリ場

特にテーマはなく、ざっくばらんに書いています

落とし物を拾った日

この間、急に警察から電話がかかってきた。仕事中の真昼間である。1度おそらくワンコールだけの着信があって、これはなんだ? と調べていたらまた同じ番号から電話がかかってきた。
「○○警察の○○駅前交番ですが」
と電話口で言われたときには、なんだろう。最近何かしたか? 車も最近は運転してないから何もないけれど、先月とかでオービスか何かに引っかかったか? それとも何か落とし物でもしたか? とまあいろいろ考えてしまったが、その後の話を聞いてすぐに要件がわかった。
この間、お金を拾ったのだ。拾った施設に預けていたのだけれど、1日持ち主が現れなかったので項番に届けたということらしい。その確認の電話だった。
要件がわかって私はやっと安堵した。

それはこの間の休日に出かけた時のこと。博物館に入って休憩がてらベンチに座って、スマホを取り出した時のことだ。手元に落とした視線の先、床に何かが落ちているのが目に入った。ゴミか何かだろうかと思いつつ拾い上げるとなんとそれはお札であった。半分に折りたたまれた千円札が、たぶん5枚くらい。お金が落ちていたのだ。
そのベンチは博物館の施設内にあって、割とオープンスペースであった。人通りもそれなりにある。トイレの出口にあるので私のような感じで何人か休憩がてら座っていたりした。入口から近く、またミュージアムショップへの通り道でもある。おそらくだけれど、ミュージアムショップで買い物をした時のお釣りか何かを、ベンチに座った拍子に落としてしまったに違いない。
ベンチのはすむかい、10mくらい離れたところには、伝統工芸品の仮設売り場みたいなものがあって、売り場のおじさんが商品についたほこりか何かを払っている。
私は拾い上げたお札を持って、とりあえずその伝統工芸品売り場のおじさんに話しかけた。
「そこのベンチの下にお金が落ちてたんですけど、誰か座ってました?」
「いや、わからんなあ」
まあそうだと思う。荷物ならまだしも、お金の落とし物はたぶん落とし主に検討を付けるのが難しい。
おじさんも似たようなことを思ったらしく、落とし主がどうこうよりもどう処理するかを検討することにした。
「とりあえず、受付に渡してみようか」
「そうですね」
博物館の入口近くには事務所兼団体チケット販売窓口があった。チケット販売は2階なのだが、団体受付だけはここですよ、と注意書きがしてある。ここにおじさんと一緒にお金を持って行った。
窓口で対応してくれた人にお金を預けると、場所と時間を聞かれて、それから一枚の白い紙を受け取った。落とし物を拾った人用の記入用紙らしい。名前、住所、電話番号と、それから落とし主が現れなかったときの権利を放棄するかどうかのチェック欄があった。博物館だから落とし物というのは割とよくあることなんだろうか。意外とテンプレートがちゃんと用意されている物なんだな、と思いながら私は言われたとおりに記入していく。
親切でバインダーを左向きにして記入用紙をはさんでくれたのだけれど、あいにく左利きなので逆に挟みなおしたのを見られたときはちょっとだけ気まずかった。
そんなわけで記入し終わった紙を渡し、お金を預け、それでまあ全部お終い、とばかりに後はきれいさっぱり忘れて博物館見物を楽しんで帰ったというわけだ。交番から電話がかかってくるまで、すっかりお金を渡したことなど忘れていたわけだった。


しかしまあ「警察です」というワードは心当たりが何もなくても結構パニックになるもんだ。宿泊した後のホテルからの電話は大抵忘れ物の連絡なのでそれはそれでヒヤッとするけれど、警察は本当にビビる。でもまあほんと、何もなくて良かったよ。
落としたお金の持ち主だなんてよっぽどのことがなければ証明なんかできないわけで、あのお金はきっと国庫にでも入るんだろうな。一応、落とし主がいなかったら貰える権利とか、それから落とし主がいた場合でも1割貰える権利とかあるけれど、まあ5千円だしいいやと思って放棄します、と言ってしまった。交番からの電話の趣旨も最終的にはその権利関係の確認だった。まあ一番揉めるところというか、大事なポイントではあるよね。
話には聞いていたけれど本当にそういう権利があって、それを確認されるんだな、と思った経験だった。