言葉のリハビリ場

特にテーマはなく、ざっくばらんに書いています

商店街の小さな店の存亡

昔、そこは本当にただの空き地だった。建物と建物の間にある余剰スペース。実際何に使われていたかは皆目見当もつかない。柵で覆われた半端なスペース。たぶん畳で換算しても多く見積もって4畳くらいのスペースしかない。そういう土地だ。そこにある時突然プレハブのような建物ができた。

カウンターに椅子が4つ程。その建物は飲食店であるらしく、しかもそば屋であるという。驚いた。ものすごい狭いスペースでまさか建物ができるなんてと驚いて、その上飲食店だというからさらに驚いた。あのスペースで何ができるんだろうとかなり不審がったものだった。
そば結構美味しいらしかった。そこそこ高単価の手打ちそばという事だったが、味が良いしそばなのでそれなりに回転率も良かったようだ。とにかく座席数が少なかったからなんとかそれを改善しようとしたみたいで、途中改装が行われて2階席が出来てさらに10人くらいは入れるようになったらしい、というところまで聞いた。聞いた、というのは全く外からはわからないし入るには大抵満席だったのでチャンスがなかったのだ。そうこうしているうちにそば屋は休みがちになった。入口には、他所で出した新店舗の開店応援に行っていると書かれていた。応援ならば仕方がない。どうせこちらの店のスペースでは従業員は最大2人といったところだろう。2階を客席へに改造してあるから待機や休憩のスペースもないし。なら広くて応援が必要な店に行きたいだろうよ。まあ向こうの店とやらが落ちつけば帰ってくるだろう。
だが、このそば屋は程無くして閉店してしまった。店員は応援に出たまま帰ってこないなぁいつ店が開くのかな、などと悠長に構えていたら閉店だよ。ついぞそばを食べることなく閉店してしまった。残念なことだ。チャンスは逃すと二度と掴めないものなんだなあ。

そば屋がなくなってしばらくして、跡地は唐揚げ屋になった。同じ商店街に既に3軒唐揚げの店があるのだが、果敢にもこの店は既存店を上回るサービスを持ってして戦いを挑んできた。それは常に揚げたてであるという事。つまり、注文を受けてから揚げ始めるというシステムを使っていた。
いつ行っても揚げたてである半面、必ず待たされるという良いのかどうかわからないシステムである。近くで買い物をして戻ってくればちょうどいいというような、そういう設計らしい。確かに揚げたての唐揚げはとても美味しかった。
ただこの店の立地、広さは変わらない。つまり店内で待機して待っていることがほとんど出来ない。座って待てるのは2人くらい。住宅街なので総菜は売れるはずだが、ベビーカーすら入れない店内、店の前の歩道もさほど広くない、注文が立て込むとなかなか揚がらない、など不幸が重なった。2階をイートインスペースにしてどんぶりを売ってみたり、弁当を販売してみたり、ビールを売り出してみたり、工夫をしていたが振るわなかったようでまたこの店も休みがちになってしまった。しかも弁当を始めたのにもかかわらず昼営業しない日が増えてしまった。これはひどい悪循環。
夜の飲み需要はないわけではない。3件向こうの焼き鳥屋は立ち飲みで5人くらいしか入れないが繁盛しているし、開店から都合10年くらいは経っている。単純に味だけなら唐揚げ美味しいんだけどなあと思う私はそば屋の反省を生かして結構足を運んだものだったが、営業時間がおかしくなってから行けなくなりそのまま店が閉まってしまった。
2店舗目も閉店というわけである。

その後、数か月空き家のまま推移していたがついに3つ目の店が入居することに相成った。それはイタリアンバル。まさかの、である。ただこの店読みは非常によく、ランチタイムに500円でピザを出したり、同価格で持ち帰りをやっていたりしていつも人が入っていた。夜は飲み放題のメニューも結構あるようで、比較的高単価だしなんだか毎日埋まっているしこれは長く続くかもしれないな、と期待にほくそ笑んだものだった。
500円のピザはとてもおいしいし、家で電話して頼んでおけば受取が15分後とかでも何ら問題ない。1度注文を断られたことさえあった。注文が立て込んでいて1時間はかかると言われ、流石にやめたわけだっが、これだけ注文が来てるなら売れてて安泰だななんて思ったわけだった。
だが今回もまた期待が裏切られることとなる。

ある時突然急に昼間の営業日が少なくなった。ほとんど夜だけの営業となってあらまあ昼はやめたのかと思ったら夜も開かなくなって、これはもしやと思ううちに閉店してしまった。つい先日のことである。開店から半年経ったかどうかであっという間になくなってしまった。
原因はやはり狭さだと思う。ピザ用の窯を入れていたが、1回で1枚ずつしか焼けないこともあってか非常に効率が悪かった。開店直後に入ってもかなり時間がかかった。これを複数人こなすのは無理がある。夜の食べ放題などはピザの注文が入ると厳しかっただろう。コンロも2つしかなかったからパスタと他のつまみとなんて作るのは大変だっただろう。店員も相変わらず2人くらいまでしか入れなかったし。

家賃が高いのかもしれないが、どうにも続かないあの店舗に次は何が入ることになるのだろうか。楽しみでもあり、期間限定の楽しみになるのではないかという不安もある。
そば屋の反省からずいぶんと積極的に足を運ぶようにして、そして潰れないようにと積極的に口コミを宣伝してみたりしてしまったわけだが、それであの店のキャパシティーをオーバーする客が来てしまったのだとしたら、それは申し訳なく思う。